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盛岡地方裁判所 昭和25年(行)120号 判決

原告 小山要助

被告 岩手県知事

一、主  文

原告の訴はこれを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、「被告が昭和二十五年八月一日附岩手た第八三五号買収令書をもつて岩手県東磐井郡興田村大字沖田字西ノ沢二十六番山林八反六畝十三歩外墓地十二歩のうち現況採草地三反六畝十三歩につきなした買収処分はこれを取り消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として、請求趣旨記載の山林は元訴外小山俊也の先代友助の所有であつたところ、右友助は十数年前そのうち約五反歩を訴外佐藤作太郎に贈与し、その余の三反六畝十三歩は、右俊也の代になつてから昭和二十二年一月中訴外小野寺梅男がこれを買い受け、その後昭和二十三年十月原告が右梅男から譲り受けてこれが所有権を取得したのであるが、右俊也はいまだに右山林の分筆及び所有権移転登記手続を履行していないため登記簿上は依然同訴外人名義となつているので、原告は右俊也を相手取り一ノ関簡易裁判所に所有権移転登記手続請求の訴を提起し目下同裁判所に繋属中である。ところが前記佐藤作太郎の附帯買収の申請に基き昭和二十五年六月十五日東磐井郡興田村農地委員会が前記山林のうち三反六畝十三歩につき、自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する)第十五条第一項第二号に該当する牧野として、登記簿上の所有名義人前記小山俊也を相手方として買収計画を樹立し、次いで被告知事が県農地委員会の所定の承認手続を経て右俊也宛の同年八月一日附買収令書を発行しこれを右俊也に交付して右山林三反六畝十三歩を買収したのである。しかしながら右買収処分は左の理由により違法である。

(一)  村農地委員会が前記買収計画を樹立するに際し合式の農地委員会議の議決に基きこれをなしたものではなく、買収計画の成立そのものに瑕疵がある。

(二)  村農地委員会は右買収計画を樹立した旨の公告をなさず且つ所定の書類の縦覧もしなかつたので原告は右買収計画樹立の事実を知るに由なく、ために異議、訴願をもつて右買収計画の不当を争うことを得なかつた。原告が偶々右事実を知つたのは同年十一月十一日であり、当時既に異議、訴願をなすことのできる法定期間を経過していたのであり、原告は自創法上与えられている行政救済上の権利行使の機会を不当に奪われた結果となるのである。

(三)  前記買収処分は一筆の土地の一部買収であるにかかわらず、買収令書には前記山林八反六畝十三歩外墓地十二歩のうち現況採草地三反六畝十三歩を買収するとのみ表示し、その如何なる部分を買収したのか買収範囲を特定し具体的にこれを表示していない。

(四)  右土地中前記佐藤作太郎が開墾して畑にした部分及びその附近約二畝歩の草刈場を除いては、昭和二十年訴外小山綾之助が薪炭用雑立木を、昭和二十二年一月前記小野寺梅男が杉立木をそれぞれ伐採するまでは杉及び雑立木の繁茂した純然たる山林であつたところ、右立木伐採後前記買収計画樹立当時の現況も柴木の密生する山林であつて、嘗て牛馬の放牧又は採草地に供せられた事実なく、固よりこれを前記佐藤作太郎に小作牧野として賃貸したことはないから右土地は自創法第十五条第一項第二号に該当しないのである。

以上いずれの点よりするも前記買収処分は違法であり、且つ右の違法は右買収処分を取り消さなければならない瑕疵に該当するからこれが取消を求めるため本訴請求に及ぶと述べ、被告の本案前の抗弁に対し、原告が前記買収処分のあつたことを知つたのは昭和二十五年十一月十一日であり、本訴の出訴期間は右同日をもつて起算すべきであるから本訴は法定の出訴期間内に提起された適法のものであると附陳した(立証省略)。

被告訴訟代理人は、本案前の抗弁として、本件買収処分の相手方である訴外小山俊也に対し買収令書の交付せられたのは昭和二十五年八月二十五日であるから本訴は自創法第四十七条の二第一項所定の出訴期間経過後になされた不適法なものであり却下さるべきであると述べ、本案につき原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として原告主張事実中その主張の山林が登記簿上訴外小山俊也の所有名義になつていること、訴外佐藤作太郎の買収申請に基き原告主張日時村農地委員会が右山林につき自創法第十五条第一項第二号に該当する牧野として右小山俊也を相手方として買収計画を樹立したに対し異議、訴願がなされなかつたこと、次いで被告知事が所定の承認手続を経て右小山俊也宛の原告主張日附の買収令書を発行したことはいずれもこれを認めるが、原告その余の主張事実はこれを争う。原告主張の本件山林の所有者は登記簿記載のとおり前記小山俊也であつて原告はその所有者ではない。右小山俊也を相手方としてなした本件買収の手続は違法でない。村農地委員会は昭和二十五年六月十五日前記買収計画を樹立するや即日これを公告し、同日より十日間書類を縦覧に供したのであり、また前記山林のうち現況採草地の部分は当初よりその範囲を特定して買収したのであつて手続上何等原告主張のような瑕疵はないから原告の本訴請求は失当であると述べた(立証省略)。

三、理  由

まず本件訴が自創法所定の出訴期間内に適法に提起されたものであるか否かについて案ずるに、本件買収処分の相手方は訴外小山俊也であつて原告ではないのであるから、原告が本訴において本件土地の真の所有者であると主張して右買収処分の適否を争い得るとしても、右買収処分の取消を求める本訴において、これが法定の出訴期間内に適法に提起されたものであるか否かを認定するに当つては、右買収処分の相手方である前記小山俊也についてこれを検討すべく、本件買収処分の相手方とされていない原告についてこれを決すべき理由がない。原告がこれを知るに至つたと主張する昭和二十五年十一月十一日をもつて右出訴期間の起算点となすことを得ないこと勿論である。

もつともかくては、買収処分の相手方とされていない真の所有者であると主張する者が、当該買収処分の存在を知る機会のないまま法定期間経過により出訴し得ない結果となることのあるべきは想像に難くないところであるが、しかし自創法第四十七条の二第一項所定の「当事者」とは当該行政処分において相手方とされている者に限定されるのであり、これを拡張して当該行政処分の対象につき権利を主張し得るすべての者をも含むものとは到底解し得られないのであつて、かかる第三者は無効をもつて当該行政処分を争い得るは格別、苟もこれを取消訴訟の対象とする限り、その出訴期間は、右行政処分において相手方とされた者を基準として起算すべきものといわなければならない。

そこで本件買収処分の相手方である前記小山俊也に対し何時右買収処分がなされたかにつき案ずるに、証人小山みん及び小山俊也の各証言を綜合すれば、右小山みんは小山俊也の祖母であり昭和二十二年頃までその後見人であつたところ、右小山俊也が成年に達して後見が終了した後も、同人が東京に遊学中で不在のところからその後も引き続き同人に代つてその財産の管理等一切を処理していたこと、本件買収処分当時も右小山俊也は東京に在住して不在であつたため、昭和二十五年八月二十五日頃小山俊也本人宛の原告主張の買収令書が右小山みんに交付され、みんが俊也に代つて受領するやその頃その旨本人に手紙をもつて知らせたことを認めるに充分である。原告援用の証人小山俊也の証言部分によつても右認定を覆すに足らず、その他右認定を覆すに足る証拠がない。

以上の事実によれば右小山みんは本件買収処分当時小山俊也の財産を管理していて、同人の本籍地における農事経営一切は固より、買収令書の受領等の対外的事務までも右小山俊也を代理して処理する権限を有していたものであり、昭和二十五年八月二十五日頃本件買収令書がこのような包括的な代理権限を有していた右小山みんに交付されたのであるから、前記本件買収令書の交付は右小山俊也本人に対する買収令書の交付として適法であるといわなければならないのであり、右小山俊也が東京に在住のため仮りに当時これを知らなかつたとしても前叙のような代理権限を有する小山みんが交付を受けてこれを知つた以上、その効果は小山俊也本人に及ぶべきは勿論である。

しからば本件買収処分の取消を求める訴の出訴期間は、前記昭和二十五年八月二十五日頃を基準とすべく、これよりおそくとも二箇月以内にこれを提起すべきであつたにかかわらず、原告が本訴を提起したのは法定の出訴期間を経過した同年十一月二十七日であること本件記録上明白であるから、本訴は出訴期間経過後になされた不適法なものとして、進んで本案につき判断するまでもなくこれを却下すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 村上武 上野正秋 佐藤幸太郎)

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